内部留保は誰のもの?

お金

景気が悪くなると、「企業の内部留保が多すぎる!」「従業員の給与として吐き出させろ!」という意見が飛び出します。

これは正しい主張なのでしょうか?
そもそも”内部留保”って誰のものなんでしょう?

内部留保って何?

はじめに”内部留保”が何かを考えてみたいと思います。

“内部留保”は、「すべての経費を除いて最終的に残った”当期純利益”のうち、”配当金”に回されずに社内に蓄えられる部分」のことです。
最終的に残った利益のうち、”株主に配らない部分”ですね。

企業が得た利益は、株主に配ってしまう”配当金”の部分と、内部に留めておく”内部留保”の部分で成り立っているということです!

一般的に”内部留保”と言われる部分は、会計上は”利益剰余金”と言ったりします。
決算書で”内部留保”というワードを探しても見当たりません。

この記事では、”内部留保”という言葉に統一して説明を試みたいと思います。

企業活動の目的は株主の利益?

株主は、持っている資金で利益を得るために企業に投資します。
企業は投資された資金を有効に活用し、株主の利益をなるべく大きくしようと頑張ります。

それぞれの企業には、「社会にどうやって貢献するか」という、理念としての目的があると思いますが、一方で、すべての企業の目的のひとつには間違いなく、”株主の利益を大きくする”というものがあります。
それがその企業に出資した株主とのお約束です。出資は慈善活動ではないので仕方ないですね^^;

株主の利益を大きくする方法には2つあります。
「企業の価値を上げて株価を上昇させること」と、
「得た利益を配当金として株主に還元すること」
です。

100円で買った株を200円の価値に上げるのも株主の利益です。
100円ずつ現金を株主に分配するのも株主の利益です。

現金を1億円持っている企業があるとします。その企業の価値は、おそらく1億円以上あると評価されるでしょう。100円で1000円は買えませんからね!
その企業が、その1億円を株主に配当金として支払うとどうなるでしょう?
当然、その企業から1億円の現金がなくなった分、株価は下がります。

つまり、配当金は、企業の価値を吐き出す行為とも言えます。
逆に、資産を内部留保に回すと、企業の価値は間違いなく上昇します。

当期純利益の配分をどうするか?

企業は、最終的に残った利益をいくら配当金として株主に還元し、いくら内部留保に回すかということを決めないといけません。そして、配当金として吐き出さなかった分、企業価値は上昇します。

「何%を配当金に回すか」ということを”配当性向”と言います。「当期純利益のうち、どれだけ配当金に回したか」の割合です。

配当性向が100%であれば、「当期の利益はすべて株主にお配りします」ということになります。
配当性向が0%であれば、「当期の利益はすべて内部に留めておきます」ということになります。

内部留保は現金とは限らない?

さて、企業は内部に留めた利益をどういう形で持つのでしょう?すべて現金?
もちろん、何かあったときのために、いくらかは現金として持つかもしれません。突然業績不振でお金がなくなるかもしれないし・・・。

でも、企業の目的のひとつは株主利益の最大化です!
銀行に預けておくだけではもったいない!

企業は得た利益を使って、生産効率などを上げるために設備に投資するかもしれません。
土地を買うかもしれません。
建物を立てるかもしれません。

このように、企業は内部に留めておいた利益をそのまま現金で置いておかずに、いろんな形の資産に変えて持っています。

もし、内部留保をすべて現金で持っていたら?
それは一種の株主への裏切り行為と考えることもできます。

株主は持っているお金を眠らせるのが嫌で、お金を投資に回しています。
そのお金がその企業に投資として回っているのです。

内部留保したものの、使うつもりがないのなら、「その利益も配当金に回して返しなさいよ!」ということになります。
株主は、配当金として還元された資金を、別の企業への投資に回すこともできたでしょう。
その機会を奪っておきながら、何にも使わないというのは、株主のための行動とは言えません。

つまり、企業が内部留保に回していいのは、「きちんとその利益を使って更に会社を成長させます!」と言えるときだけです。
こう考えると、”内部留保は現金として置いておくべきものではない”と言えます。

「内部留保を給与にあてろ!」はナンセンス?

以上が”内部留保は一体何なのか”という私なりの答えです。
この記事冒頭の疑問に戻り、「内部留保を給与にあてろ!」という意見が正しい主張なのか考えます。

「内部留保を給与にあてろ!」という意見は的外れであると考えます。
理由は3つあります。

理由の1つ目は、「内部留保はすべて現金ではない」ということです。
先に見てきた通り、「内部留保はすべて現金ではない」どころか、「現金として置いておくべきではない」と言えるものです。
企業の更なる成長のために設備投資に回したりしている可能性が高いです。

理由の2つ目は、「内部留保は前期の利益の残りを表しているだけ」だということです。
内部留保はBS(貸借対照表)の右側にあり、BSの右側は、「資産の元手はどこから得たか」ということを表しています。

内部留保は、「今ある資産の元手のうち、前期からの利益はいくらか」を表しています。
「内部留保を縮小しろ」というのは、「前期から繰り越す利益を減らせ・なくせ」と言っていることになります。「利益の一部を将来の投資に回してはいけません」と。

もっと言うと、「企業は成長するな!」と言っているようにも聞こえます。
確かにそういう主張をする方々もいらっしゃるでしょうが、私はそれが社会のためになるとは思いません。

理由の3つ目は、「内部留保は株主の利益」だと言うことです。
上記で説明したとおり、最終的に残った利益のうち、株主にすぐに還元しなかったものが内部留保です。

例えば、配当性向100%であれば、すべての利益を株主に還元するところを、配当性向を50%に抑えて「利益の半分は成長に使わせてね!」として、株主に返さず、将来のために使わせてもらいます。
そう考えると、「内部留保は株主のもの」ということがわかると思います。

これを「従業員に配れ!」というのは、「株主から資産を奪ってみんなに配れ」と言っていることになります。
共産主義者のセリフになってしまいました。

結論、「内部留保を給与にあてろ!」は共産主義的な考えです。
私は、民主主義や資本主義の方が”まし”だと考えますが、他人の主義主張を否定しません。

「内部留保を給与にあてろ!」と主張する政治家がいれば、それは内部留保を理解していないか、所属政党に関係なく共産主義者であるか、どちらかということになります。

まとめ

内部留保は、利益のうち、株主に配らずに将来のために内部に留めておく部分のことです。
すべて現金の形になっているわけではありません。

株主に還元すべき利益のうち、将来のために使わせてもらうために内部に留めているので、株主ものです。
これを他人に配れというのでは、共産主義者の主張のようになります。

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